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ボロアパートを“ホテルライク”に——賃貸住宅も街も再生したい若きオーナーの挑戦

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富治林希宇オーナー

「地域共創」――地域の困りごとを解決したいという想い。不動産にかかわるすべての⼈にとって快適な環境を提供したい、というビジョンを持ち活動する若き賃貸住宅オーナーがいる。富治林希宇オーナーだ。オーナー業で稼ぐというよりも、さまざまなカタチで地域・街・社会に貢献することに重きを置き、楽しんでいる。そんな富治林オーナーが行う地域共創の一貫である「ボロアパート再生」。再生した経緯や、富治林オーナーの考え方などを聞いた。(取材・文/編集部)

アパートのコンセプトは“非日常”

富治林オーナーが、滋賀県にボロアパートを購入して大掛かりなリフォームをすると聞いたのは2021年の2月。6世帯の2階建アパートで、2階へ行く階段が抜け落ちてしまっているほどのボロだったという。もちろん入居者ゼロのアパートだ。

「今回の滋賀県の物件は、本当にボロボロなのに、隣には築浅の戸建てが建っているという住宅街にあります。近隣の人たちも、この景観の悪いアパートには困っていたようです。僕は、今ある街の景観を守りながら、ボロに新しいカタチを吹き込む。これをいろいろな人と協力し、楽しみながら創っていくことが楽しいんです」(富治林オーナー)


滋賀県高島市に購入した誰も住んでいないボロアパート。街の景観や治安にも影響していた

建物の再生をきっかけに環境を整えていきたい、新しいコンセプトを建物や街に吹き込んでいきたい、という富治林オーナーの想いから購入した物件。このアパートのコンセプトはどんなものなのだろうか。

「この物件のリフォームには、リゾートホテル経営者の意見を取り入れて行いました。一緒にやってくれた方も、住宅に興味を持っていて『あえて地方のボロ物件という方が、バリューがあるよね』と協力してくれたのです」(富治林オーナー)


富治林 希宇(ふじばやし ねがう)オーナー
1989年、京都府生まれ。大学卒業後、不動産にかかわる金融やITなどを事業とするいくつかの会社で経験を積み、2017年12月に1棟目を購入。不動産事業を通して地域貢献したいという思いがあり、購入した築古物件を地域の業者とともに再生していくことを楽しんでいる。「TerraCoya大家の会」を創設し、企画や協業調整などを担っている

「宿泊って、非日常空間を体験できるものですよね。自分もホテル住まいが好きです。最近はコロナの影響もあって、ホテルでのテレワークや長期間宿泊するプランなどもあり、需要が増えています。そういったコンセプトで建物を創ったら面白いなと……」(富治林オーナー)

ホテル住まいのような日常——。在宅勤務という働き方が増えているなか、それが安価な賃料で実現できるとしたら、入居者にとって生活が充実することは間違いないだろう。

地域に根付いた会社と一緒に盛り上げたい

「コンセプトも重要なのですが、僕には“地域を盛り上げたい”という想いもあります。そのため、施工は地域にある工務店などに依頼しました。外観は北岡板金工業さん。内装は内村燃料さん。ガス屋は伊丹産業さんなど。依頼する前に数社で相見積もりをとり、その中で、自分たちのコンセプトや、方向性を理解し一緒にやってくれる会社を探しました」(富治林オーナー)

地域に根付いた会社と一緒に地域を盛り上げていきたい、そういった富治林オーナーの想いが、さまざまな人たちとの出会いを生み、新しいもの(物件)を創り上げていくのだろう。富治林オーナーには、こういった会社とのやりとりにおいては“いつものスタンス”があるという。

「自分はいつも細かく見積もりはとりません。業者さんにデザインのイメージを共有して『これと、これを150万円くらいでできますか?』というように、業者さんにも分かりやすく、やりやすいように話をしています。そういったときは、細かい単価はあまり気にしていませんね(笑)。先方もプロの職人さんなので、仕事に対する想いがあると思います。『こういったものを、この予算で作りたい』とだけ伝えれば、職人さんも考えてくれ、自分で思いつかなかったアイデアや、施工方法など教えてもらえることもあります。そんなワクワクしているときに『この単価、下がらないか』などいったら、絶対シラけますよね。プロ相手だからこそ、任せる部分は任せて力を借りています」(富治林オーナー)

内装をやってもらった内村燃料とは、もう4棟目になるそうだ。今回も「このくらいの予算だけど……」と相談し、予算に合わせてできることを提案してくれた。


ホテルのコンセプトを取り入れ、畳だった和室からカーペットの洋室へリフォーム
before(左)after(右)


キッチンも白を基調とした壁で明るく生まれ変わった
before(左)after(右)



水回りも清潔感のある明るい空間になった before(上)after(下)

「今回内装は、6部屋で300万円くらいかけました。モデルルームを1室作ったので、その部屋で150万円くらいになったのかな、残りの150万円で5部屋をやってもらいました。外観で150万円くらいかかったので、トータルで500万円いかないくらいですね」(富治林オーナー)


外観も見違えるようにきれいになった before(上)after(下)

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大事にしたい“つながり”が増えていく

さまざまな協力者の力を借りて、ボロアパートに新しい命を吹き込んだ富治林オーナー。コンセプトとしていた“ホテルライク”はどのようなところに組み込まれているのだろうか。

「一番は色使いですね。“こういった色使いはホテルを感じられる”など、たくさんのアイデアをもらいました。しかし予算もあまりなかったので、似たような素材や色の材料を自分で選んだんですが……大変でしたね(笑)。例えば、室内に敷いたカーペットもそうです。賃貸ってあまりカーペットの部屋ってないと思うんですが、ホテルでは当たり前ですよね。ホテルでは、デザイン性のあるおしゃれなものを使っていることが多いのですが、日常ということもあり、シンプルで抑えた色合いにしました。カーペットを抑えた色にしたので、壁は白を基調にして、フローリングの色も明るめに。色合いの組み合わせも、非日常をイメージできるようなものを取り入れていきました」(富治林オーナー)

しかし一般的な考えとして、地方の田舎町にこんな素敵な賃貸アパートをつくっても需要はあるのだろうか。富治林オーナーは、物件を購入するときや、ターゲットの見極めはどのように行っているのだろうか。

「もちろん購入前にしっかり調べますよ。今はネットで8割は調べることができます。あとは、現地に直接行って仲介会社を回ります。『どういった人が住んでいるのか』など、エリアについて聞き込みします。今回の物件の管理会社である『合資会社サイセイ』さんは、以前にこの辺りで別の物件を購入したときに知り合って、それからお世話になっています。今回の物件で、管理をお願いするのは3棟目ですね。とてもいい方で、いろんな案件も紹介してくれるので大事にしたいつながりです」(富治林オーナー)

「ターゲットは、1DKなので単身者向けです。そして、今回の物件はペットの飼育も想定しています。周辺にあまりペット可物件がないので、ペットを飼育している人で3〜4万円くらいの家賃しか払えないけど、おしゃれな部屋に住みたい人や、リモートワークする人も増えているので、おうち時間を充実させたい人などが対象です。あと、生活保護受給者も受け入れます。この辺りの生活保護の家賃上限が3万5000円くらいなのですが、そのくらいの家賃だと、やっぱり古いボロ物件になってしまいます。生活保護の人にもいい環境を提供できるかなと思っています」(富治林オーナー)

6部屋の家賃設定も決まり、入居募集も開始したそうだ。モデルルームとして作った1部屋は4万5000円くらいだが、ほかの5部屋は3万5000円程度。相場的には標準くらいなので、同じくらいの家賃の物件には負けないと自信を持っている富治林オーナー。

「すごい田舎なんですが、賃貸住宅が少なく供給が足りていないエリアでもあるので、満室にする自信はあります」(富治林オーナー)

個人オーナーの力の限界

このような建物の再生に尽力している富治林オーナーだが、街全体を変えていきたい、盛り上げたいという想いがあっても、個人の力だけではどうにもならないことが多いという。そのため、起業家としても行動することに。そのサービスが『COSOJI(こそーじ)』だ。

「COSOJIは、賃貸住宅オーナーが所有する物件の共用部清掃や草刈り、点検などの管理業務と、近所でスキルのある方をマッチングするサービスです。オーナーは、清掃費コストが抑えられ、さらに、物件の“今”をクラウド上の写真からいつでも確認することが可能です。また、その地域で暮らす人の収入UPや雇用創出につながる仕組みです」(富治林オーナー)


『COSOJI』のホームページ

COSOJIを立ち上げたきっかけの一つに、「自分の物件以外の賃貸物件もよりよくしたい。たくさんの建物がきれいに維持されることで、入居者も街も変わっていく」という想いが込められている。

「自分で再生した物件名には『レクティブ』と付けています。Re(再び・さらに・新たに)とActive(活動的・積極的・能動的)を組み合わせて自分で作った造語なんですが、古い物件にもう一度活発さを吹き込むイメージです。これは、建物に対してだけではなく、街にも広げていきたいと思っています。そのためにCOSOJIを立ち上げました。COSOJIは事業としてやっているので、もちろん利益も必要ですが、個人オーナーとしては、儲けを第一にとは考えていません。物件を再生しても売却もあまりしませんし。それよりも、その建物と出合ったことで、建物の再生、さらにその地域で何ができるかを考える方が楽しいんです」(富治林オーナー)

「不動産は自分が食えるだけ稼げればいい」と笑って話す富治林オーナーは、現在32歳。20代・30代限定の不動産コミュニティー『TerraCoya大家の会』も運営し、若き仲間を増やしている。若い世代が、不動産業界に新しいカタチを創り出す未来が見える日も近いのではないだろうか。

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この記事を書いた人

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